相続の手続きを進めるうえで、最初に確認しておきたいのが「遺言書があるかどうか」です。遺言書があるかないかで、その後の進め方が大きく変わります。
これまでの回では、相続放棄・財産調査・遺産分割・相続登記をお伝えしてきました。今回はその大前提となる「遺言書があったときの対応」について、1級FP技能士・CFP®の増島正典が、遺言書の種類・見つけたときの注意点・探し方まで、わかりやすく解説します。
まず知っておきたい「遺言書は原則として優先される」
有効な遺言書がある場合、法定相続分よりも、遺言の内容が優先されます。「誰に何を遺すか」を、亡くなった方が生前に決めていたわけですから、遺産分割の話し合いよりも、まず遺言書の内容が基準になります。
だからこそ、相続が始まったら、「遺言書が残されていないか」を早い段階で確認することが大切です。
遺言書の主な種類
遺言書には、いくつかの種類があります。実務でよく出てくるのは、次の2つです。
① 自筆証書遺言
亡くなった方が自分で書いた遺言書です。手軽に作れる一方、日付・署名など法律上の要件を欠くと無効になる場合があり、偽造・紛失のおそれもあります。自宅の引き出しや金庫などで見つかることが多いタイプです。
② 公正証書遺言
公証役場で、公証人が作成する遺言書です。原本は公証役場に保管されるため、紛失や偽造の心配がなく、方式の不備によって無効となる可能性が極めて低い、信頼性の高い方式です。
このほかに「秘密証書遺言」という方式もありますが、実際にはあまり使われていません。
【重要】自宅で遺言書を見つけても、勝手に開封しない
もっとも注意してほしいのが、これです。封がされた遺言書を自宅で見つけても、その場で開封してはいけません。
自筆証書遺言(後述の保管制度を利用していないもの)などは、家庭裁判所での「検認(けんにん)」という手続きが必要です。検認は、相続人に通知したうえで、家庭裁判所が遺言書の状態などを確認し、その後の偽造・変造を防ぐための手続きです。検認は、遺言書の有効・無効を判断する手続きではありません。
封印のある遺言書を、家庭裁判所以外で勝手に開封すると、5万円以下の過料が科される場合があります。(なお、開封してしまっても、それだけで遺言が無効になるわけではありませんが、余計なトラブルを避けるためにも、開けずに家庭裁判所へ持ち込みましょう。)
検認が「必要な遺言」と「不要な遺言」
- 検認が必要:自筆証書遺言(遺言書保管所に保管していないもの)、秘密証書遺言
- 検認が不要:公正証書遺言、遺言書保管所(法務局)に保管された自筆証書遺言
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」
2020年から、自分で書いた遺言書を遺言書保管所(法務局)が預かってくれる制度が始まりました。この制度を使って保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が不要になります。
紛失や偽造の心配もなくなるため、自筆証書遺言を作る場合に、利用が広がっています。「亡くなった方が、この制度を使っていなかったか」も、確認するポイントの一つです。
遺言書の探し方
「遺言書があるかどうか分からない」というときは、次のように探します。
- 身近な場所を探す:自宅の引き出し・金庫・仏壇のほか、金融機関の貸金庫など、大切なものを保管しそうな場所
- 公正証書遺言を照会する:全国の公証役場で、公正証書遺言の有無を照会できます(相続人などが請求できます)
- 遺言書保管所(法務局)に確認する:保管された遺言書がないか、「遺言書保管事実証明書」で確認できます(保管されている場合は「遺言書情報証明書」で内容を確認できます)
特に公正証書遺言は、全国どこの公証役場からでも照会できるため、「作っていたかもしれない」というときは、確認してみる価値があります。
遺言があっても「遺留分」に注意
遺言書は原則として優先されますが、例外もあります。それが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属(父母など)といった一定の相続人には、最低限受け取れる取り分が法律で保障されています。これが遺留分です。「すべての財産を特定の一人に遺す」という遺言があっても、これらの相続人は、自分の遺留分にあたる金額を請求できる場合があります(遺留分侵害額請求)。
なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。遺留分をめぐる問題は複雑になりやすいので、争いになりそうなときは、早めに弁護士に相談するのが安心です。
遺言と違う分け方をしたいとき
前回お伝えしたとおり、事情によっては、遺言と異なる分け方ができる場合もあります。ただしその場合、相続人全員だけでなく、遺贈を受ける人(受遺者)など、利害関係人全員の合意が必要になることがあります。また、遺言執行者が指定されているかどうかでも扱いが変わります。判断に迷うときは、専門家に確認しましょう。
まとめ
- 遺言書は、原則として法定相続分より優先される。相続が始まったら、まず有無を確認する
- 主な種類は自筆証書遺言と公正証書遺言
- 封のある遺言書は勝手に開封しない。自筆証書遺言などは家庭裁判所の「検認」が必要
- 公正証書遺言・遺言書保管所(法務局)に保管された自筆証書遺言は検認が不要
- 探すときは、自宅・公証役場(公正証書遺言の照会)・遺言書保管所(法務局)を確認する
- 遺言があっても、配偶者や子などには遺留分がある(兄弟姉妹にはない)
遺言書は、その後の相続の進め方を左右する、大切な出発点です。扱いを間違えると、余計なトラブルを招くこともあります。相続は期限との勝負です。迷ったら、一人で判断せず、お気軽にご相談ください。
なお、検認や遺言書の取り扱いは司法書士・弁護士、遺留分など争いのあるケースは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人(公証役場)など、内容に応じた窓口へご相談ください。
ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ
増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。制度の要件や運用は変わることがあります。遺言書の検認・取り扱いは司法書士・弁護士、遺留分など争いのあるケースは弁護士、公正証書遺言の作成は公証人(公証役場)など、具体的なケースは各分野の専門家にご確認ください。

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