遺言の押印はいつから不要に?2026年の法改正と、いま書くべき理由

生前対策








前回は、認知症と資産凍結についてお伝えしました。そのなかで「同じ改正法で、遺言の制度についても見直しが行われています。こちらは別の回で取り上げます」とお約束していました。今回が、その回です。

令和8年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。遺言の制度と、成年後見の制度が、どちらも大きく変わります。成年後見については、制度の創設から約26年ぶりとなる、大きな見直しです。

ただ、改正の内容を一覧にしてお見せしても、たぶんお役に立ちません。ですので今回は、ご相談でいちばん多く聞かれるであろう一点に絞ってお答えします。「いま遺言書を書くべきか。それとも、押印が要らなくなるまで待つべきか」。1級ファイナンシャル・プランニング技能士・CFP®の増島正典が、実務の側から整理します。

あわせて、私がいまも忘れられずにいるご相談のことも、お話しします。「あとは書くだけ」というところまで進んでいた遺言書が、とうとう書かれなかった、という話です。


まず、いつから変わるのか

大事なことを先に申し上げます。この改正は、まだ施行されていません。公布されただけで、実際に使えるようになるのは先です。

しかも、施行日は3つに分かれています。いずれも「公布の日から○年を超えない範囲内において政令で定める日」とされていますので、正確な日付は、まだ決まっていません。

  • 押印の任意化など:公布から1年以内 →令和9年(2027年)6月24日までに施行されます
  • 成年後見制度の見直し:公布から2年6か月以内 →令和10年(2028年)12月24日まで
  • 保管証書遺言の創設など:公布から3年以内 →令和11年(2029年)6月24日まで

いちばん早いのが押印の任意化で、遅くとも令和9年6月24日までに施行されます。逆に言えば、それ以外はまだ相当に先だということです。ここが、今日の話の前提になります。


遺言① 押印が要らなくなります

自筆証書遺言には、これまで署名と押印が必要でした。この押印の要件が廃止され、押印は任意になります。

  • 対象は、自筆証書遺言・秘密証書遺言・特別の方式の遺言における、遺言者や証人などの押印要件です
  • 遺言書を書き加えたり、訂正したりするときの押印も、任意になります

背景には、行政の手続きや民間の商慣行で押印の見直しが進んできたこと、そして押印についての慣行や意識が変わってきたことがあります。公正証書遺言については、令和5年の公証人法の改正で、遺言者などの押印要件がすでに廃止されています。その流れが、他の方式にも及んだかたちです。

ただし、施行されるまでは、いまのルールのままです。いま自筆証書遺言を書くのであれば、署名と押印が必要です。


遺言② パソコンで作れる「保管証書遺言」ができます

こちらは、もう少し先の話ですが、影響は大きいと思います。保管証書遺言という新しい方式が設けられます。

いまの自筆証書遺言は、本文をご本人が手書きする必要があります。手書きの負担は、ご高齢の方ほど大きくなります。新しい方式では、ここが変わります。

  • パソコンなどを使って作成できるようになります(署名、またはこれに代わる措置が必要とされています)
  • 作成したデータや、それを印刷したものの保管を法務局に申請します。オンラインでの申請も可能とされています
  • 手続きでは、ご本人が遺言の全文を口述します。遺言書保管官がご本人であることを確認します
  • 遺言書保管官が相当と認めるときは、ウェブ会議を利用した手続きも可能とされています
  • 法務局が保管しますので、紛失や変造などのリスクを抑えることができます
  • 保管証書遺言についても、相続が始まったあと、遺言者が指定した方に遺言の存在を通知する仕組みが設けられます
  • 相続が始まったあと、相続人などは証明書の交付を請求できます
  • 家庭裁判所の検認は不要です

パソコンで作れて、法務局が保管し、指定した人への通知の仕組みがあり、検認も要らない。いまの自筆証書遺言の弱点が、まとめて解消される方式だと言えます。

あわせて、現在の自筆証書遺言書保管制度についても、今回の改正により、オンライン手続などのデジタル化に対応する規定が整備されます。オンラインでの保管申請や証明書の交付請求、ウェブ会議を利用した手続きができるようになります。

なお、すでに令和8年2月から、一部の手続についてオンライン化の試行も始まっています。


それでも、いま書くことをおすすめします

ここが、今日いちばんお伝えしたいところです。

「押印が要らなくなるなら、そのときに書けばいい」「パソコンで作れるようになるまで待とう」。そう思われるかもしれません。ただ、私は、待たないほうがよいと考えています。理由は3つあります。

① 施行日が、まだ決まっていません

先ほど申し上げたとおり、施行日は「政令で定める日」です。期限は決まっていますが、その日がいつになるかは、まだ分かりません。「来年になれば」と待っていても、来年のいつなのかが分からない状態です。

② 待っている間に、書けなくなることがあります

前回お伝えしたとおり、遺言書は、遺言の内容やその結果を理解・判断できる「遺言能力」があるうちに作成する必要があります。遺言能力がないと判断されれば、書いても無効になるおそれがあります。

ただ、それだけではありません。書ける状態のまま、書かずに終わってしまうことがあります。

こんなことがありました

お父さまから、遺言書を書きたいというご相談を受けました。ご子息は遠方にお住まいで、お近くには、ご結婚されたお嬢さんがいらっしゃいました。

ご希望は、遠方にいる息子に家を相続させたいというものでした。あわせて、いくつかご要望をうかがったのですが、そのなかには、条件として付けることが難しい内容も含まれていました。私が判断できることではありませんので、弁護士におつなぎしました。

そのあと、弁護士から報告がありました。自筆証書遺言を書くことになり、内容も決まった。あとはご本人が書くだけです、と。ご本人からも、同じお話をうかがいました。

ところが、書かないまま、ご病気で入院され、亡くなられました。

遺言書はありません。ですので、残された相続人の方々で話し合いをされ、家はお嬢さんが相続され、遠方のご子息は現金を相続されたと聞いています。

亡くなったご本人が望んでおられなかった形で、相続が終わりました。

なぜ書かなかったのか、私には分かりません。ご本人が亡くなられた以上、確かめようもありません。

私は、遺言の内容を知っています。けれども、遺言書がない以上、その内容を相続人の方にお伝えすることはできません。忘れることにしました。

「あとは書くだけ」というところまで進んでいても、書かなければ、何も残りません。制度の施行を待つというのは、この「あとは書くだけ」の状態で待つ、ということです。

③ いまの方式で適法に作成した遺言は、無効になりません

これも大事な点です。いまの方式で適法に作成した遺言が、改正法の施行によって無効になるわけではありません。押印が任意になるというのは、「押印がなくてもよくなる」という意味であって、「押印してあるとだめになる」ということではありません。

そして、遺言書は後から書き直すこともできます。新しい方式が使えるようになってから、あらためて内容を見直し、必要に応じて作り直すこともできます。

まとめると、いま書けるうちに、適切な方式で遺言を残しておくこと。これがいちばん確実だと考えています。


成年後見① 「終われる制度」になります

ここからは、成年後見の話です。前回、私はこうお伝えしました。「一度始めると、原則としてやめられません」。

この点が、改正で変わります。前回お話しした内容が変わることになりますので、正直にお伝えしておきます。

  • いまは、後見・保佐・補助の3つの類型があり、判断能力の程度によって、使える制度が決まっていました
  • 改正後は、後見と保佐の制度を廃止し、補助の制度に一元化されます。ご本人に必要な事項について、代理権や取消権を付与するかたちになります
  • 判断能力を欠く常況にある方については、家庭裁判所が、法律で定められた重要な財産行為を取り消す権限などを持つ「特定補助人」を付する旨の審判をすることができます
  • そして、判断能力が回復していない場合でも、制度を利用する必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、利用を終了できるようになります

いまの制度は、遺産分割のために後見人をつけたとしても、その遺産分割が終わったあとも続きます。改正後は、必要な範囲で、必要な期間に限って利用するという考え方を、より反映した制度になります。


成年後見② 本人の意見と、交代のしやすさ

前回お伝えした「誤解されやすい2つのこと」に関わる部分も、変わります。

  • 選任のときに家庭裁判所が考慮すべき要素の冒頭に、「本人の意見」が置かれます。いまは考慮要素の最後に規定されています
  • 補助人が職務を行うにあたって、ご本人に情報を提供し、話を聴くなどの適切な方法でご本人の意向を把握するようにしなければならないことが明確化されます
  • 解任の事由に「本人の利益のため特に必要があるとき」が加わります。いまは横領などの不正行為や著しい不行跡といった、後見人側の事情に着目した事由に限られています。改正後は、たとえばご本人と面談を行わないなどによって適切な保護が受けられないときにも、交代が可能になります
  • 報酬については、補助人が行った事務の内容などが考慮要素であることが、規定上明確化されます。あわせて、報酬の請求が認められた事案の実績が公表される予定とされています
  • 補助人が、必要に応じて、家庭裁判所の許可を得て、ご本人の死亡後の火葬・埋葬の契約を締結できるようになります。権限の範囲内で、未払いの施設利用料を支払うといった相続財産の保存に必要な行為も可能になります

前回「大きな支出をするたびに、第三者に説明することになります」「交代は簡単ではありません」とお伝えした部分が、ご本人の意向を軸にした制度へ寄せられていく、とご理解ください。


成年後見③ 任意後見も使いやすくなります

前回おすすめした任意後見も、見直されます。

  • いまは任意後見監督人が必ず選任されますが、改正後は、家庭裁判所が明らかに監督人による監督の必要がないと認めるときは、監督人を選任せず、家庭裁判所が直接監督することができるようになります
  • いまは法定後見の利用が始まると任意後見契約が終了してしまいますが、改正後は、補助の制度の利用を開始しても、任意後見契約の存続が認められます
  • ご本人と任意後見受任者との間で、契約の効力を発生させる順序を定める合意ができるようになります。複数の任意後見契約を結んでいる場合などに、どの契約の効力を先に発生させるかについて、あらかじめ合意できるようになります
  • 任意後見契約を発効させる手続きの申立てについて、いまはご本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者が申立てをできますが、改正後はご本人が公正証書で指定した方も申立てができるようになります。ご親族以外の、生活状況を把握している方に委ねることもできます

任意後見は「始めるタイミングを誰かが判断しなければ動かない」という弱点がありました。申立てができる方を、ご自身で指定できるようになるのは、この弱点への手当てです。


いま利用している方は、どうなるのか

すでに制度を利用しておられる方については、経過措置が置かれています。

  • いま後見・保佐を利用している方:基本的に、現行法の内容のまま利用を継続できます。ただし、解任の事由と、意向を尊重する義務については、改正後の民法が適用されます
  • 新しい制度に移りたい場合:改正後の補助の制度について申立てをすると、いま受けている後見・保佐開始の審判は取り消されます
  • 利用をやめたい場合:後見・保佐開始の審判の取消しを申し立てることができます
  • いま補助を利用している方:改正後の補助の制度の内容で、利用を継続できます
  • 施行日より前に結んだ任意後見契約:改正後の任意後見契約法が適用されます(改正前の法律のもとで生じた契約の効力は維持されます)

参考までに、令和7年12月末時点の利用者数は、後見が18万828人、保佐が5万8162人、補助が1万8078人とされています(最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況」)。ご家族が後見や保佐を利用しておられる方は、決して少なくありません。


「待つべきか」への、私の答え

整理します。

  • 遺言書は、待たずにいま書いてください。施行日は未定で、待っている間に書けなくなることがあります。いまの方式で適法に作成した遺言が、改正法の施行によって無効になるわけではありません
  • いま後見が必要な状況なら、いまの制度を使ってください。「終われる制度になるまで待つ」という選択は、現実的ではありません。ご本人の生活も、介護の費用も、待ってくれません
  • これから任意後見を考える方は、改正の内容を知っておくと選択肢が広がります。とくに「発効の申立てを誰に委ねるか」は、いまのうちに考えておく価値があります

制度が変わることと、いま動くこととは、矛盾しません。いま起きているご相続や、いま必要になった手続きは、いまの制度で進みます。変わることが決まっているからこそ、内容を知ったうえで、いまできることをしておく。それが、いちばん損のない進め方だと考えています。


まとめ

  • 令和8年6月17日に「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)が成立し、6月24日に公布されました。施行はこれからです
  • 施行期限は3つに分かれます。押印の任意化は令和9年6月24日まで、成年後見の見直しは令和10年12月24日まで、保管証書遺言は令和11年6月24日まで。正確な日は政令で定められます
  • 遺言では、押印が任意になり、パソコンで作れて法務局が保管する「保管証書遺言」(検認は不要)が新設されます
  • 成年後見では、後見と保佐を廃止して補助に一元化し、必要がなくなれば終了できるようになります
  • 本人の意見が選任の考慮要素の冒頭に置かれ、交代もしやすくなります
  • 任意後見では、監督人が選任されない場合が設けられ、補助との併存が認められ、発効の申立てができる方をご本人が指定できるようになります
  • いま利用している方には経過措置があり、一定の手続きによって、継続・移行・終了に対応できる仕組みが設けられています
  • そのうえで、遺言書は待たずに、いま書いてください。「あとは書くだけ」は、書いたことにはなりません

出典:法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html


個別のご相談について(無料・月5件まで)

ご相談では、いまの状況を整理し、「何を・どの順番で・どの専門家に頼めばよいか」を一緒に考えます。改正の内容を踏まえて、いま動いたほうがよいのか、待ってよいのかについても、整理してお伝えします。

なお、遺言書の作成や後見の申立てなど、法律上の個別判断が必要な場面は弁護士・司法書士、相続税の試算や申告は相続を主に扱っている税理士、不動産の売却は不動産業者へおつなぎします。私自身が、法律や税務の判断をすることはいたしません。

一人で対応しておりますので、ご返信までに2〜3日いただくことがあります。また、じっくりお話をうかがうため、月5件までとさせていただいています。

ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ


増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。

※本記事は、令和8年8月時点で公表されている情報にもとづいています。改正法は施行前であり、施行日は政令で定められます。制度の詳細や運用は、今後変わることがあります。また、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。具体的なご相談は、法律面は弁護士・司法書士、税務は税理士、不動産の評価・売却は宅地建物取引業者など、内容に応じた専門家へご確認ください。

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