新シリーズ「相続 生前対策プロジェクト」/テーマ:生前対策の全体像(なぜ今備えるのか・対策の全体マップ)

これまでの「相続90日プロジェクト」では、大切な方を亡くされた後の90日間にやるべき手続きを、順番にお伝えしてきました。相続放棄、財産調査、相続税、遺産分割、相続登記、遺言書——。振り返ると、遺されたご家族には、想像以上に大きな負担がかかることが見えてきたと思います。

ですが、その負担の多くは、元気なうちの「準備」で、大きく減らすことができます。今回から始まる新シリーズ「相続 生前対策プロジェクト」では、1級FP技能士・CFP®の増島正典が、亡くなる前にできる相続対策を、わかりやすくお伝えしていきます。第1回は、その全体像です。


なぜ、生前の対策が必要なのか

生前対策の目的は、大きく3つに整理できます。

① 家族の争いを防ぐ

相続でもっとも避けたいのが、遺されたご家族が「誰が何を相続するか」でもめてしまうことです。「誰に何を遺すか」を、あらかじめ本人が決めておくことで、多くの争いを減らすことができます。

② 税の負担を軽くする

相続税がかかる場合でも、早めに準備しておくことで、負担を抑えられることがあります。あわせて、納税に使えるお金(納税資金)を、あらかじめ用意しておくことも大切です。

③ 手続きをスムーズにする

遺言書があれば、原則としてその内容に沿って相続手続きを進められるため、遺されたご家族の手間を大きく減らせます。また、認知症などで判断能力が低下したときの備えにもなります。


【重要】生前対策は「元気なうち」に始める

ここが、もっとも大切なポイントです。生前対策の多くは、本人の判断能力がしっかりしているうちにしかできません。

たとえば、認知症などで判断能力が低下すると、遺言書の作成や生前贈与などの契約が難しくなり、十分な判断能力が認められない場合には、有効な契約ができなくなることがあります。また、本人の判断能力が十分でないと金融機関が判断した場合には、預貯金の払い戻しや不動産の売却などが難しくなり、「資産凍結」と呼ばれる状態になることもあります。

「まだ元気だから」「まだ早い」と思っているうちが、実は対策のできる大切な時期です。早めに動くことが、何よりの対策になります。


生前対策の主な方法(全体マップ)

生前対策には、いくつかの方法があります。この新シリーズでは、次のようなテーマを、一つずつ詳しく取り上げていきます。

① 遺言書を作る

「誰に何を遺すか」を、法的に有効な形で残しておく、もっとも基本的な対策です。争いを防ぐ土台になります。前回(第9回)は「見つけたときの対応」でしたが、今度は「書く側」の視点でお伝えします。

なお、遺言書を作成する場合でも、一定の相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の取り分が法律で保障されているため、その点も踏まえて内容を検討することが大切です。

② 生前贈与

生きているうちに、財産の一部を、家族などに贈与しておく方法です。暦年贈与相続時精算課税といった仕組みがあります。2024年の税制改正で扱いが見直された部分もあり、注意が必要です。

③ 生命保険の活用

相続人が受け取る死亡保険金には、500万円×法定相続人の数までの非課税枠があります。受取人を指定できるため、渡したい人に、確実に、現金で遺せるのが大きな利点です。納税資金の準備にも役立ちます。

④ 不動産の対策

相続でもめやすく、税金も大きくなりやすいのが不動産です。共有名義は、将来の管理や売却でトラブルになりやすいため、そうするかどうかを慎重に検討することが大切です。あわせて、活用や売却を生前に判断しておくなど、早めの検討が効いてきます。不動産にくわしい専門家の視点が、もっとも活きる分野です。

⑤ 家族信託・任意後見など

認知症などによる「資産凍結」に備える仕組みです。元気なうちに、財産の管理を家族に託しておくことで、いざというときも、信託した財産について、あらかじめ決めた契約内容に沿って、家族が管理を続けられるようになります。


「やりすぎ」には注意

一つだけ、気をつけたいことがあります。節税だけを目的にした、極端な対策は禁物です。たとえば、名義だけ家族になっていても、実質的に本人の財産と判断されると、名義預金として相続財産に含まれることがあります。行きすぎた対策は、かえって家族の関係を損ねることにもつながります。

大切なのは、税金・争い防止・ご本人やご家族の生活のバランスをとりながら、「わが家に合った対策」を選ぶことです。


まとめ

  • 生前対策の目的は、①争いを防ぐ ②税の負担を軽くする ③手続きをスムーズにするの3つ
  • 多くの対策は、判断力がしっかりしている「元気なうち」にしかできない
  • 主な方法は、遺言書・生前贈与・生命保険・不動産の対策・家族信託など
  • 節税だけに偏らず、わが家に合ったバランスで考える

「相続90日プロジェクト」で見てきた、遺されたご家族の負担。その多くは、元気なうちの準備で減らせます。次回からは、それぞれの対策を一つずつ、くわしく解説していきます。迷ったら、一人で判断せず、お気軽にご相談ください。

なお、ご相談先は、内容に応じて次のように分かれます。

  • 遺言書:弁護士・司法書士・行政書士(作成支援)、公証人(公正証書遺言)
  • 相続登記:司法書士
  • 相続税・生前贈与:税理士
  • 家族信託:弁護士・司法書士など、経験のある専門家
  • 不動産の売却:宅地建物取引業者(宅建業者)

ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ


増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。法令や税制は改正されることがありますので、具体的なご相談は、税務は税理士、法律・遺言書・家族信託は弁護士・司法書士、不動産売却は宅地建物取引業者など、内容に応じた専門家へご確認ください。

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