遺言書の作り方(書く側の視点)/自筆証書と公正証書の選び方・要件・遺留分・遺言執行者

生前対策


前回は、生前対策の全体像をお伝えしました。今回はその第一歩、「遺言書の作り方」です。

「相続90日プロジェクト」の第9回では、遺言書を見つけたときの対応をお伝えしました。今回はその反対、これから遺言書を書く側の視点で、1級FP技能士・CFP®の増島正典が、方式の選び方から、書くときの注意点まで、わかりやすく解説します。


そもそも、遺言書は必要か

「うちは財産が少ないから」「仲がいいから大丈夫」——そう考える方は多いのですが、次のようなご家庭では、遺言書の必要性が特に高いといえます。

  • 主な財産が自宅(不動産)で、現金が少ない → 分けにくく、もめやすい
  • 子どもがいない → 配偶者と、亡くなった方の兄弟姉妹などが相続人になることがある
  • 相続人の人数が多い、または疎遠な相続人がいる
  • 再婚し、前の配偶者との間にお子さんがいる
  • 相続人以外に財産を渡したい(お世話になった方、内縁の配偶者、団体への寄付など)
  • 特定の相続人に事業や不動産を承継させたい

特に、相続人以外の方に財産を渡したい場合は、遺言書を作成しておくことが重要です。


【ご相談事例】子どもがいないご夫婦のケース

以前、こんなご相談を受けました。お子さんがおらず、ご両親もすでに亡くなられている方です。この場合、法定相続人は、配偶者と、亡くなった方の兄弟姉妹になります。

ご本人は「すべての財産を妻に遺したい」というご希望でした。そこで私は、遺言書を作っておくことが有効であるとご説明しました。理由は、兄弟姉妹には遺留分がないからです。

遺言書がなければ、遺産分割は配偶者と兄弟姉妹の話し合いになります。ですが、遺言書で「すべてを妻に」と残しておけば、兄弟姉妹には遺留分がないため、その内容を実現しやすくなります。

実際の作成にあたっては、確実性の高い公正証書遺言をおすすめし、専門家におつなぎしました。お子さんのいないご夫婦の場合、配偶者に財産を残したいと考えるなら、遺言書は特に重要な備えです。


遺言書の主な方式は2つ

実務でよく使われるのは、自筆証書遺言公正証書遺言です。それぞれの特徴を比べてみましょう。

自筆証書遺言

  • 費用:ほとんどかからない(保管制度を使う場合は手数料あり)
  • 手軽さ:思い立ったときに、自分で書ける
  • 注意点:要件を欠くと無効になることがある。紛失・改ざんのおそれ
  • 検認:原則として家庭裁判所の検認が必要(保管制度を利用した場合は不要)

公正証書遺言

  • 費用:公証人の手数料がかかる(財産の額などにより異なります)
  • 手続き:公証人が作成し、証人2人以上の立ち会いが必要
  • 安心感:方式上の不備による無効のリスクを抑えやすく、原本は公証役場に保管される
  • 検認:不要

どちらにも良さがありますが、確実性を重視するなら公正証書遺言、まずは手軽に残しておきたいなら自筆証書遺言、というのが一つの目安です。特に、不動産が中心の相続や、もめる可能性がある場合は、公正証書遺言が安心です。


自筆証書遺言を書くときの要件

自筆証書遺言には、法律で決められた要件があります。ここを外すと無効になりかねません。

  • 全文を自分で書く(パソコンでの作成は原則不可)
  • 日付を書く(「令和◯年◯月吉日」など、特定できない日付は不可)
  • 氏名を書く
  • 押印する

なお、財産目録については、パソコンで作成したものや、通帳のコピー、登記事項証明書のコピーを添付する方法も認められています。ただし、自書によらない財産目録には、各ページに署名・押印が必要です。(2019年から可能になりました)

書き直したいときは

遺言書は、何度でも書き直すことができます。内容が抵触する複数の遺言書がある場合、原則として、抵触する部分について後の日付の遺言が優先されます。だからこそ、日付は正確に書いておく必要があります。


法務局の保管制度を使う

自筆証書遺言を書いたら、遺言書保管所(法務局)の保管制度を利用するのがおすすめです。2020年から始まった制度で、次のような利点があります。

  • 紛失や改ざんの心配がない
  • 家庭裁判所の検認が不要になる
  • 形式面のチェックを受けられる(※内容が有効かどうかまでは判断されません)
  • 亡くなった後、指定した方へ通知が届くようにすることもできる

手数料も比較的少額で利用できます。「自筆で書くけれど、確実に残したい」という方に適した仕組みです。


【重要】遺留分に配慮する

遺言書を作るうえで、もっとも注意したいのが「遺留分」です。

配偶者・子(およびその代襲相続人)・直系尊属(父母など)には、最低限受け取れる取り分が法律で保障されています。これを無視して「すべてを一人に」という遺言を残すと、他の相続人から遺留分にあたる金額を請求され(遺留分侵害額請求)、かえって争いの火種になることがあります。

なお、兄弟姉妹には遺留分はありません。

「争いを防ぐために書いた遺言書が、争いの原因になる」——これを避けるためにも、遺留分に配慮した内容にしておくことが大切です。


「付言事項」で想いを伝える

遺言書には、財産の分け方だけでなく、ご家族へのメッセージを書き添えることができます。これを「付言事項(ふげんじこう)」といいます。

法的な効力はありませんが、「なぜ、この分け方にしたのか」という理由や、感謝の気持ちを書き残しておくことで、ご家族の納得感が大きく変わります。実務上、こうした理由や想いを書き添えることで、ご家族の納得につながり、争いを避ける一助となることがあります。


遺言執行者を決めておく

遺言書には、「遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)」を指定しておくことができます。遺言の内容を実現するために、手続きを進める人のことです。

遺言執行者を指定しておくと、遺言の内容を実現するための手続きが明確になり、預貯金の払戻しや不動産の相続登記などを進めやすくなります。ご家族の一人を指定することもできますし、弁護士・司法書士などの専門家に依頼することもできます。


まとめ

  • 不動産が中心、子どもがいない、相続人以外に渡したい——こうした場合は特に遺言書の必要性が高い
  • 主な方式は自筆証書遺言(手軽・費用が少ない)と公正証書遺言(確実・検認不要)
  • 自筆証書遺言は全文自筆・日付・氏名・押印が要件(財産目録はパソコン可)
  • 書いたら遺言書保管所(法務局)の保管制度を活用する
  • 遺留分に配慮しないと、かえって争いの原因になる
  • 付言事項で想いを伝え、遺言執行者を決めておくと安心

遺言書は、遺されたご家族への「最後の思いやり」です。判断能力が十分にあるうちに、早めに準備しておくことが大切です。「まだ早い」と思っている今こそ、検討を始めるときといえます。何から始めればよいか分からないという方は、お気軽にご相談ください。

なお、ご相談先は、内容に応じて次のように分かれます。

  • 遺言・相続に関する法律相談:弁護士
  • 遺言書作成の支援:弁護士・司法書士・行政書士など(業務範囲に応じて)
  • 公正証書遺言の作成:公証人
  • 相続税など税務:税理士
  • 不動産の評価・売却:不動産会社・宅地建物取引業者など

ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ


増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。法令や税制は改正されることがありますので、具体的なご相談は、税務は税理士、法律・遺言書は弁護士・司法書士、不動産売却は宅地建物取引業者など、内容に応じた専門家へご確認ください。

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