実家の空き家をどうするか

相続の手続き



前回は、おひとりさまと、お子さんのいないご夫婦の相続についてお伝えしました。今回は、ご相談のなかで年々増えている「実家の空き家」を、1本まるごと使って取り上げます。

第5回でも少し触れましたが、今回は制度の説明ではなく、「結局、どうするのか」という判断に絞ってお話しします。売るのか、貸すのか、持ち続けるのか。私は不動産売買に32年携わってきましたが、この判断を先送りにして、状況が良くなった例をほとんど見たことがありません。1級ファイナンシャル・プランニング技能士・CFP®の増島正典が、判断の材料を整理してお伝えします。


なぜ、空き家は先送りされるのか

ご相談を受けていて感じるのは、決められない理由がお金の話ではないことが多い、ということです。

  • 思い出がある。親が暮らした家を、自分の代で手放すことへの抵抗
  • 兄弟の意見がそろわない。誰も住まないが、誰も「売ろう」と言い出さない
  • 何から手をつけるか分からない。家財の片付け、名義、価格。どれも面倒に見える
  • 急いでいない。固定資産税を払えば、とりあえず持っていられる

どれも、よく分かります。ただ、先送りしている間にも、家は傷み、費用は積み上がっていきます。


放置すると、何が起きるか

① 固定資産税が上がることがあります

住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地の特例があります。200㎡までの部分は課税標準が6分の1になるなど、税負担が軽くなる仕組みです。

ところが、令和5年の法改正で、管理が行き届いていない空き家について、市区町村から「管理不全空家等」や「特定空家等」として勧告を受けた場合、この特例の対象から外れることがあります。そうなると、翌年度以降の固定資産税の負担が大きく増える場合があります。

「税金が安いから持っていられる」という前提が、崩れることがあるということです。

② 傷むほど、売りにくくなります

人が住まなくなった家は、想像より早く傷みます。換気されず、水回りも動かないためです。雨漏りが始まると、そこからの傷みは一気に進みます。

買い手の側から見れば、傷んだ家は「解体費がかかる物件」です。解体費の分だけ、提示できる価格は下がります。そして解体費そのものも、近年は上がっています。

③ 近隣への責任が生じることがあります

屋根材や外壁が飛ぶ、庭木が越境する、動物が住み着く。建物の管理が不十分だったために他人に損害を与えた場合、所有者が責任を問われることがあります。遠方に住んでいても、所有している以上、無関係ではいられません。


判断は3つ|売る・貸す・持ち続ける

売る

もっとも現実的な選択です。現金になり、管理からも解放されます。相続した空き家であれば、要件を満たせば税制上の特例が使える場合があります(後述)。

迷われる方に、私がよく申し上げるのは「まず、いくらで売れるのかを知ってから迷いましょう」ということです。金額が分からないまま「安く買いたたかれそうだ」と考えて止まっている方が、とても多いのです。

貸す

「他人に貸すのは抵抗があるが、売るのも忍びない」という場合の選択肢です。ただし、貸せる家と、貸せない家があります。立地、間取り、そして貸せる状態にするまでの修繕費。ここを試算せずに始めると、家賃が修繕費の返済で消えます。

また、いったん貸すと、売りたいときにすぐ売れるとは限りません。将来の選択肢が狭くなる点は、頭に入れておいてください。

持ち続ける

「子どもが将来使うかもしれない」という理由で持ち続ける方がいらっしゃいます。ここは、はっきり確認していただきたい点です。「かもしれない」ではなく、実際にお子さんに聞いてみてください。使う予定がないのであれば、持ち続ける理由は、費用に見合うものかどうかを考える必要があります。

固定資産税、火災保険、電気や水道の基本料金、草刈りや通風のための往復。年間でいくらかかっているかを、一度書き出してみることをおすすめします。


売るときに知っておきたい特例

相続した空き家の3,000万円特別控除

相続した空き家の売却による譲渡所得が生じた場合、一定の要件を満たせば、その譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

主な要件は、次のようなものです。

  • 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること(区分所有建物を除きます)
  • 相続開始の直前に、被相続人がひとりで住んでいたこと(老人ホームへ入所していた場合の取扱いもあります)
  • 相続してから譲渡するまで、事業や貸付け、居住に使っていないこと
  • 譲渡対価が1億円以下であること
  • 家屋が耐震基準に適合するか、または取り壊して売ること
  • 現在の制度では、令和9年12月31日までの譲渡が対象とされています

なお、令和6年1月1日以後の譲渡では、相続人が3人以上の場合、控除額は最高2,000万円になります。また、耐震改修や取壊しについては、売買後に買主が行う場合でも、一定の要件を満たしたうえで、譲渡の日の属する年の翌年2月15日までに完了すれば、特例の対象となる場合があります。

要件はかなり細かく、ひとつでも外れると使えません。使えるかどうかで手取りが大きく変わりますので、売却を考え始めた段階で、税理士にご確認ください。売ってしまってからでは、間に合いません。

取得費加算の特例

相続税を納めた方が、一般的には相続開始日の翌日から3年10か月以内に売却した場合、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例が使えることがあります。売る時期の判断材料になります。

その前に、相続登記が済んでいますか

名義が亡くなった方のままでは、通常、買主への所有権移転登記まで進めることができません。相続登記は令和6年4月から義務化され、原則として、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請する必要があります。2024年4月1日より前の相続も対象で、原則2027年3月31日までに申請することとされています。売る売らないに関わらず、まず確認してください。


「売れない家」もあります

正直に申し上げると、すべての家がすぐに売れるわけではありません。次のような事情があると、時間がかかるか、価格が大きく下がることがあります。

  • 再建築ができない(接道の条件を満たしていないなど)
  • 土地の境界が確定していない/隣地との越境がある
  • 傾斜地や、擁壁に不安がある
  • 市街化調整区域にあり、建て替えに制限がある
  • 家財がそのまま残っている(片付け費用が見込まれる)

事前に調査することで、売却前に問題を把握できるものが多くあります。売れないと決めつける前に、まず宅地建物取引業者に見てもらってください。条件が悪くても、それを前提にした売り方があります。


解体するかどうか

「古い家だから、解体してから売ったほうがいいのでは」というご相談をよくいただきます。先に解体するかどうかは、慎重に判断してください。理由は2つあります。

ひとつは、建物を取り壊して更地にすると、住宅用地の特例の対象から外れ、固定資産税の負担が増える場合があることです。固定資産税は1月1日時点の状況で決まります。年内に解体して、その年のうちに売れなければ、翌年の負担が大きく変わることになります。

もうひとつは、買主が古家付きのまま購入したいと考える場合があることです。解体費をかけたのに、それが価格に反映されないこともあります。

実例|先に解体して、税負担が増えてしまった

事情をよく知らない不動産業者に解体を勧められ、そのとおりに取り壊したところ、翌年度の固定資産税が大幅に上がってしまった。こうした話を、私は何度も見てきました。

ですから私は、ご相談を受けたときには、建物を先に解体するのではなく、まず古家付きのまま売却できるかを検討することをおすすめしています。買主側で解体する条件にする場合もありますが、売買契約の内容や税制によって扱いが変わります。その分、解体費相当の値引きを求められることはあります。ただし、買主が取得した後に解体する場合は、売主が所有している間に建物を取り壊す場合とは、固定資産税の扱いが異なります。

実例|解体したあとに、契約が白紙に戻ることがあります

もうひとつ、あまり語られない理由があります。

売買契約のなかで、売主が引渡しまでに建物を解体すると約束することがあります。ところが、解体したあとに契約が解約になることがあるのです。

私は32年のあいだに、引渡しの前に買主が亡くなられたケースを3件経験しました。若い方でも、事故などで亡くなることがあります。買主が亡くなると、予定していた住宅ローンの実行ができなくなり、契約を継続できなくなることがあります。実際に、ご親族が資金を出して契約を引き継がれたこともありました。ただ、いつもそうなるとは限りません。資金の手当てがつかなければ、契約は解約となります。

そして、解体した家を、元に戻すことはできません。売主の手元には、更地と、上がった固定資産税だけが残ります。

だからこそ、解体するかどうか、誰が解体するかは、売却条件や税制を確認したうえで決めることが大切です。3,000万円の特別控除との関係もありますので、解体の前に、宅地建物取引業者と税理士の双方に相談してください。順番を間違えると、取り返しがつきません。


実例|待っているうちに、価格が4分の1になった分譲地

もうひとつ、お伝えしておきたい話があります。

査定の金額が、思っていたより安かった。それを嫌気して、売却を取りやめられた方がいらっしゃいました。ところがその後、同じ分譲地で売りに出す方が増え、相場はさらに下がっていきました。

バブル経済の頃、郊外の山を造成した分譲地が、各地に生まれました。大手の不動産会社や鉄道会社、公団・公社が分譲し、駅からバスの便でも、よく売れていた時代です。

時代が変わりました。少子高齢化が進み、その分譲地に住んでいた親御さんが亡くなり、お子さんが実家を相続します。ですが、通勤に時間がかかるため、住む方はいません。相続された方の多くは、都心に近いマンションにお住まいです。

私は「売れる金額のうちに、早く手放したほうがよい」とお伝えしました。いまでは、当時の4分の1まで下がってしまった分譲地もあります。

数年後に、その地域を訪ねました。誰も住んでいない家が増え、火事への不安から更地にする方も増えていました。分譲した鉄道会社の系列のスーパーが撤退し、後に入ったスーパーも撤退。あとからできたコンビニも、2年で撤退しました。バスに乗る人がいないため、いまは1時間に1本。駅からの最終バスは、19時台で終わりです。

使われなくなった住宅地が自然に還っていく、という話をテレビで見たことがありますが、その途中を見ているようでした。

すべての地域がこうなるわけではありません。ただ、「もう少し高く売れるはずだ」と待つことが、必ずしも得にならない地域があることは、知っておいていただきたいのです。とくに、駅からバス便の郊外の分譲地では、待っている間に、買い手そのものが減っていくことがあります。


どうしても手放せないとき

買い手がつかない土地について、一定の要件を満たす場合に、相続または遺贈で取得した土地を国に引き取ってもらえる制度があります(相続土地国庫帰属制度/令和5年4月開始)。

ただし、建物が建っている土地は対象になりません。また、境界が明らかでない土地、担保権が設定されている土地なども対象外とされています。承認された場合は、管理費用として10年分の負担金を納める必要があります。

「使わない土地は、いつでも国が引き取ってくれる」という制度ではありません。要件は厳しく、費用もかかります。ご検討の際は、法務局や司法書士にご確認ください。


元気なうちにできること

ここまでは、すでに空き家になっている場合の話でした。最後に、これから空き家になりそうなご実家についてお伝えします。

  • 「この家をどうしてほしいか」を、家族に伝えておく。「売ってくれてかまわない」のひとことが、のこされた方の迷いを大きく減らします
  • 名義を確認しておく。先代の名義のままになっていないか。ここでつまずく方が本当に多いのです
  • 権利証や測量図の場所を伝えておく。境界の資料があるかどうかで、売却の手間が変わります
  • 家財を減らしておく。元気なうちのほうが、ご本人の意思で処分できます

この4つは、費用がほとんどかかりません。それでいて、のこされた方の負担は目に見えて軽くなります。


どこに相談すればいいのか

宅地建物取引業者|まず、いくらで売れるかを知る

すべての判断の土台です。売れない家かどうか、貸せる家かどうかも含めて、現地を見てもらうところから始めてください。

税理士|特例が使えるかどうか

3,000万円の特別控除、取得費加算。売る前に確認しないと、間に合わない特例があります。

司法書士|相続登記

名義が整っていなければ、売ることはできません。義務化の対象でもあります。

FP・相続コンサルタント|そもそも、どうするか

売る・貸す・持ち続ける。その判断の材料をそろえ、必要な専門家におつなぎするのが私の役割です。


まとめ

  • 空き家が先送りされる理由は、お金より気持ちと段取り。ただし、待っても状況は良くなりません
  • 管理が行き届かないと、勧告を受けて住宅用地の特例から外れ、固定資産税が上がることがあります
  • 判断は売る・貸す・持ち続けるの3つ。まず「いくらで売れるか」を知ってから迷う
  • 相続した空き家の3,000万円特別控除は要件が細かい。売る前に税理士へ
  • 解体は、先に決めない。1月1日を過ぎると税負担が増えることがあり、解体後に契約が解約になるおそれもあります
  • 待てば高く売れるとは限りません。地域によっては、待つ間に買い手が減っていきます
  • 売りにくい事情(再建築不可・境界未確定など)は、事前に調査することで把握できるものが多くあります
  • 元気なうちに、意思を伝える・名義を確認する・資料の場所を伝える・家財を減らす

空き家は、時間が経つほど選択肢が減っていきます。いま何もしないことも、ひとつの判断です。ただ、それは「そのまま子や孫の世代に引き継ぐ」という判断でもあります。そのことだけは、意識しておいていただきたいと思います。


個別のご相談について(無料・月5件まで)

ご相談では、いまの状況を整理し、「何を・どの順番で・どの専門家に頼めばよいか」を一緒に考えます。不動産売買に32年携わってきた経験から、その空き家がどのくらいで売れそうか、売りにくい事情がありそうかについても、目安をお話しできます。

なお、実際の売却は不動産業者、税務の判断は税理士、登記は司法書士、相続人の間で争いが予想される場合は弁護士へおつなぎします。私自身が、法律や税務の判断をすることはいたしません。

一人で対応しておりますので、ご返信までに2〜3日いただくことがあります。また、じっくりお話をうかがうため、月5件までとさせていただいています。

ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ


増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。法令や税制は改正されることがありますので、具体的なご相談は、税務は税理士、法律面は弁護士・司法書士、不動産の評価・売却は宅地建物取引業者など、内容に応じた専門家へご確認ください。

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