30日は「3か月=相続放棄の判断」に向けた通過点

相続の手続きには、いくつかの「期限」があります。その中でも、多くの方が見落としがちなのが、亡くなってから30日頃を目安に準備しておきたい動きです。

実は、この30日は、それ自体が法律上の期限というわけではありません。本当の勝負は、3か月以内の「相続放棄をするかどうか」の判断です。そして、その判断を正しく行うために、30日を目安に準備しておきたいことが3つあるのです。

この記事では、1級FP技能士・CFP®の増島正典が、30日から3か月にかけてやるべきことを、「相続放棄の判断」というゴールから逆算して、わかりやすく整理してお伝えします。


なぜ「30日」を目安に動くのか

相続には、相続の開始を知ったときから原則3か月以内という、とても重要な期限があります。これは「相続放棄」や「限定承認」をするかどうかを決める期限です。

この3か月の判断を正しく行うには、次の3つがそろっている必要があります。

  • 遺言書があるかどうか(財産の分け方が決まっているか)
  • 相続人が誰なのか(誰が関係するのか)
  • 財産の全体像(プラスとマイナス、どちらが多いのか)

この3つを、戸籍集めなどに時間がかかることも考えて、30日を目安に動き始める——これが、あわてずに3か月の判断にたどり着くコツです。30日はゴールではなく、3か月への「通過点」と考えてください。


① 遺言書の有無を確認する

まず、遺言書があるかどうかを確認します。遺言書があるかないかで、その後の進め方が大きく変わります。

自宅を探す

自宅のタンスや金庫、引き出しなどを探してみてください。

公正証書遺言

公証役場で作られた「公正証書遺言」がないかは、相続人など利害関係人であれば、公証役場で、公正証書遺言が作成されているかどうかを確認することができます。全国どこの公証役場からでも照会できます。

法務局の保管制度(自筆証書遺言)

2020年から、法務局(登記所)で自筆の遺言書を預かる「自筆証書遺言書保管制度」が始まっています。法務局に保管されている場合は、全国の遺言書保管所(法務局)で確認・取得でき、家庭裁判所での検認も不要です。

⚠️ 自宅で自筆の遺言書を見つけたら

自宅で自筆の遺言書を見つけた場合は、家庭裁判所での「検認」という手続きが必要です。特に、封印された自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認を受ける前に開封しないでください。検認前に開封しても、それだけで遺言が無効になるわけではありませんが、過料の対象となる場合があります。


② 相続人を確定する

次に、「誰が相続人なのか」を確定します。これは、遺産分割や相続放棄の手続きの土台になる、とても大切な作業です。

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて取り寄せて、相続人を確定します。前の結婚のお子さんや、認知したお子さんがいるケースでは、思わぬ相続人が判明することがあります。

戸籍は、本籍地を移している場合、複数の役所にまたがって取り寄せる必要があり、時間がかかります。だからこそ、30日を目安に早めに動き始めることが大切です。(現在は、複数の本籍地の戸籍を最寄りの役所でまとめて請求できる「広域交付制度」もあります。ただし、請求できる人や対象となる戸籍に条件があります。)

なお、集めた戸籍をもとに「法定相続情報一覧図」を法務局で作っておくと、その後の銀行や不動産の手続きで戸籍の束を何度も出さずに済み、便利です。しかも、法務局での発行手数料は無料で、必要な通数を無料で交付してもらえます。


③ 財産の全体像を調べる(プラスもマイナスも)

そして、相続放棄を判断するうえで最も重要なのが、財産の全体像を把握することです。プラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も、もれなく調べます。

プラスの財産

  • 預貯金(通帳・キャッシュカード)
  • 不動産(土地・建物)
  • 株式・投資信託
  • 生命保険金(受取人が指定されている場合は、通常は相続財産ではありません)

マイナスの財産

  • 借入金・ローン
  • クレジットカードの残債
  • 連帯保証・保証債務

そして見落としがちなのが、サブスクリプションやデジタル資産です。ネット銀行、ネット証券(楽天証券・SBI証券など)、PayPayなどの電子マネー、暗号資産(仮想通貨)などは、通帳や郵便物が残らないため見落とされがちです。スマホの中も必ず確認してください。

なお、生命保険金は、受取人が指定されている場合、通常は受取人ご自身の財産となり、相続財産には含まれません。そのため、相続放棄をしても受け取れるケースがあります(この点は勘違いされやすいので、覚えておくと安心です)。

ただし、これは民法(遺産分割)上の扱いです。相続税の計算では、生命保険金は「みなし相続財産」として課税の対象になります。ただし、相続人が受け取る場合は「500万円 × 法定相続人の数」までは非課税です。(相続税の詳しい話は、別の回でお伝えします。)

このプラスとマイナスを並べてみて、どちらが多いのか——これが、次の「相続放棄の判断」の材料になります。


④ そして3か月:相続放棄をするかどうかの判断

30日で準備した3つがそろったら、いよいよ最大の山場、相続放棄の判断です。

相続放棄の期限は、相続の開始を知ったときから原則3か月以内です。この3か月は、亡くなった日から機械的に数えるのではなく、原則として、ご自身のために相続が始まったことを知った時から数えます(法律上は「自己のために相続の開始があったことを知った時」。この期間を「熟慮期間」といいます)。この期間内に、次の3つのどれにするかを判断します。

  • 単純承認:プラスもマイナスも、すべて相続する
  • 相続放棄:プラスもマイナスも、一切相続しない
  • 限定承認:プラスの範囲内でマイナスを引き継ぐ(相続人全員で行う手続き)

ここで注意したいのが、何もしないまま3か月を過ぎると、原則として「単純承認」したものとみなされるという点です。つまり、借金や保証債務があった場合、それもすべて引き継ぐことになります。マイナスの財産が多いのに手続きをしなかった、ということがないよう、財産調査は早めに始めてください。

⚠️ 財産に手をつけると、3か月以内でも放棄できなくなります

もう一つ、絶対に知っておいてほしい重要なルールがあります。3か月以内であっても、原則として、亡くなった方の財産を処分したり、自分のために使ったりすると、「単純承認」したものとみなされ、相続放棄ができなくなる可能性があります。これを「法定単純承認」といいます。

例えば、亡くなった方の預金を引き出して自分のために使ってしまう、遺品や不動産を売却してしまう、といった行為が該当し得ます。「まだ3か月経っていないから大丈夫」と思って財産に手をつけると、あとから多額の借金が見つかっても、もう放棄できない——という事態になりかねません。

(なお、葬儀費用の支払いなど、例外的に単純承認にはあたらないと考えられているケースもあります。ただし判断が難しい部分ですので、手をつけてよいか迷う支払いは、事前に専門家に確認することをおすすめします。)

ですから、財産を調べている30日から3か月の間は、「調べるだけ。使わない・動かさない」が鉄則です。(亡くなった方の銀行口座の正しい取り扱いについては、第2回の動画・記事で詳しくお伝えしています。)

とはいえ、過度に心配する必要はありません。プラスの財産が多い一般的なご家庭では、相続放棄をせず、そのまま相続する(単純承認)ケースが多くあります。3か月の判断は、「隠れた借金がないかを見極め、放棄が必要かどうかを確認する」ためのもの、と考えてください。だからこそ、30日での財産調査が大切になるのです。

もし3か月以内に財産調査が終わらない場合は、家庭裁判所に「期間の伸長」を申し立てることができます。ただし、これは家庭裁判所が相当と認めた場合に限られ、必ず認められるわけではありませんので、早めに動くことが大切です。判断に迷うときは、一人で抱え込まず、専門家に相談してください。


(補足)相続税の申告は10か月以内

財産の全体像がわかると、相続税がかかるかどうかも見えてきます。相続税の申告が必要な場合は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に、申告と納税を行う必要があります。対象になるかどうか分からない場合は、早めに税理士に相談しましょう。


まとめ:30日は「3か月」への通過点

  • ① 遺言書の有無を確認する(自宅・公証役場・法務局)
  • ② 相続人を確定する(出生から死亡までの戸籍)
  • ③ 財産の全体像を調べる(プラスもマイナスも)
  • ④ 3か月以内に、相続放棄をするかどうかを判断する
  • ⚠ 判断するまでは、財産に手をつけない(使うと放棄できなくなる)

30日でやる3つは、すべて3か月の「相続放棄の判断」のための準備です。判断が終わるまでは財産に手をつけず、ゴールから逆算して、あわてず一つずつ進めていきましょう。

相続のことは、一人で抱え込まないでください。ご不明な点があれば、LINE公式アカウントからお気軽にご相談ください。

ご相談はこちら: https://lin.ee/n21qVxJ


増島正典(ますじま まさのり)
1級ファイナンシャル・プランニング技能士/CFP®認定者 / 不動産・相続コンサルタント
不動産業界32年の経験をもとに、相続・老後のお金の不安をわかりやすく解消します。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法務・税務判断を保証するものではありません。具体的なケースは専門家にご確認ください。

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