第1話:一本の電話と胸騒ぎ
「父のことで相談したいんです。
妹がどうも、父のお金を勝手に
使っていたようで・・・」
ある日、一本の電話が事務所にかかって
きました。男性の声はどこか焦りと困惑
を含んでいて、ただならぬ雰囲気が伝わ
ってきました。
お母様はすでに亡くなっており、
実家にはお父様が一人で住まれていた
そうです。そのお父様が最近亡くなり、
相続の手続きを進める中で、妹さんの
行動に疑問を抱くようになったとのこ
と。
父のお金のことで妹に電話をすると、
話の途中で電話を切られます。
訪ねて行っても居留守です。
何度か電話したり訪問したりしました
が、一向に解決しません。
そこで、父が利用していたと思われる
金融機関に連絡して通帳の記録を取り
寄せました。その記録を見て、
思わず息を呑みました。
父の入院中に50万円を4回引き出して
いること。また、亡くなった当日にも
午前中と夕方に各50万円、さらに葬儀
が終わった後も葬儀費用や残りのお金
全てを、父のキャッシュカードを使って
現金で引き出していたのです。
がんの診断給付金や入院保険金、年金
など、父の口座に入っていたお金が
引き出されていました。
妹さんは亡くなる6か月前から、
お父様の入院中および死亡後にかけて、
預かっていたキャッシュカードを使って
繰り返しATMから現金を引き出して
いました。
「兄弟間のことだから、穏便に済ませ
たかったんですが・・・
もう限界です」
当人同士での解決は無理と判断して相談
に来たと、彼はそう漏らしました。
第2話:法律家の出番と動き出した調査
「このままでは、父のお金の行方も
分からず、相続も進められません」
私はすぐに、信頼できる弁護士に相談を
つなぎました。事実確認のため、
銀行から取り寄せた取引の記録や
保険金受取人が明記された書類、
保険金の支払い記録などを収集して
いきました。
調べが進むにつれ、亡くなる6か月前
からATMを使いまとまった金額が
定期的に引き出されていたことが
明らかになりました。
引き出しの時期は、主にお父様の
入院中と死亡後のものでした。
「これは・・・使い込みの可能性が
高いですね」
弁護士からの助言を受け、
妹さんに内容証明郵便で正式な説明を
求めました。
しかし、回答は得られず、
やむなく家庭裁判所に調停を申し立てる
こととなりました。
ところが妹さんは調停に一度も出席
せず、調停は不成立となり、
即座に審判へと移行しました。
第3話:訴訟と勝ち取った正義
調停が不成立に終わったため、
弁護士と相談のうえ
不当利得返還請求訴訟を提起することに
なりました。
訴訟では、妹さんが父の入院中および
死亡後に繰り返し現金を引き出していた
事実、金額、時期が明らかにされ、
適切な使途の証拠が提出されなかった
ことが大きな争点となりました。
裁判所は、
「必要な介護費用等であれば相続手続
きにおいて調整されるべきであり、
個人的な使途や証拠のない出金に
ついては、不当利得として返還義務
がある」と判断。
妹さんに対し、一定額の返還を命じる
判決が下されました。
「やっと父の名誉を守れた気がします」
相談者の目に、安堵の色が浮かびまし
た。
相続は単なる財産分配の問題ではなく、
家族の信頼や尊厳に関わる問題です。
「これっておかしいのでは?」
そう感じたとき、ひとりで抱え込まない
でください。
法的な手続きを通じて、正当な相続と
家族関係の再構築は可能です。
あなたの大切な想いと財産を守るため
に、できることは必ずあります。
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