「親が亡くなったけど、何をすればいいの?」
「手続きが多いって聞くけど、どこから始めたらいいの?」
初めて相続を経験するとき、こんな気持ちになるのは当然のことです。悲しみの中で次々と押し寄せる「やらなきゃいけないこと」に、頭が追いつかない方も多いのではないでしょうか。
でも、大丈夫です。相続の手続きには、決まった順番があります。「全部いっぺんにやらなければ」と焦る必要はありません。今のあなたに必要なことを、一つずつ一緒に確認していきましょう。
ステップ1:亡くなった直後にやること(1週間以内)
まず最初にやること ―― 死亡診断書のコピーを10枚取る
病院から手渡される「死亡診断書」は、原本が1枚しかありません。そのまま役所に提出してしまうと、原則として二度と手元に戻りません。
しかしこの後の手続き――生命保険の請求、未支給年金の請求、銀行口座の解約、携帯電話の解約など――では、あらゆる場面でこの書類のコピーが求められます。まず病院内や近くのコンビニで、最低5枚、できれば10枚はコピーを取ってから提出してください。これが今後の複雑な手続きを最短で終わらせるための、最初の最重要アクションです。
実はこのアドバイス、筆者自身の経験から来ています。私の母が亡くなったとき、担当してくださった葬儀社の方が真っ先に「死亡診断書のコピーを10枚取っておきましょう」と声をかけてくれました。そのひと言のおかげで、その後の煩雑な手続きをスムーズに進めることができました。悲しみの中でとっさに気が回らないことでも、経験豊富な葬儀社の方が導いてくれることがあります。いい担当者との出会いが、遺族の負担を大きく減らしてくれることを、身をもって実感した出来事でした。
葬儀の手配
葬儀の手配は葬儀社にほぼお任せできます。ご遺体の搬送から、お通夜・お葬式の準備、火葬の申請まで、スタッフがサポートしてくれます。「何をすればいいかわからない」と正直に伝えれば、流れを丁寧に教えてくれます。
ただし、病院から紹介された葬儀社をそのまま決めると、費用が割高になるケースがあるので注意してください。複数社から見積もりを取り、本当に必要なプランかどうかを確認することをおすすめします。
なお、葬儀費用はお布施を含め、将来の相続税計算で遺産総額から差し引けます。お寺へのお布施は領収書が出ないことが一般的ですが、「いつ・誰に・いくら支払ったか」をメモやノートに残しておくだけで税務署への立派な証拠になります。葬儀にかかった支出はすべて記録として残しておきましょう。
死亡届の提出と役所手続きは「1日で終わらせる」
死亡届の提出期限は7日以内です。病院から受け取った「死亡診断書」を添えて役所に提出し、「火葬許可証」を受け取ります。これがないと火葬できないため、最優先で対応が必要です。
役所の手続きは窓口を何度も往復しないよう、事前に以下を鞄に入れて1日で終わらせるのがおすすめです。
- 死亡診断書のコピー
- 届出人の印鑑(シャチハタ不可、念のため2本)
- 故人の保険証・年金手帳などの公的カード類一式
- 自分名義の通帳またはキャッシュカード(給付金の振込先記入に必要)
役所の窓口では、死亡届の提出と同時に「住民票の除票」を複数通取っておきましょう。
「住民票の除票」とは、亡くなった方が「その住所に住民登録されていたこと」と「死亡により登録が消除されたこと」を証明する書類です。相続手続きでは「亡くなった事実」だけでなく、本人確認・最後の住所の確認が必要になる場面が多く、以下のように幅広く使われます。
銀行の相続手続きでは、口座名義人と亡くなった方が同一人物であることを確認するために、戸籍(死亡の事実)と住民票の除票(最後の住所)を照合します。不動産の相続登記では、登記簿上の所有者と亡くなった方が同一人物であることを法務局が確認するために使います。登記簿の住所と死亡時の住所が異なる場合は、住所のつながりを示す追加書類が必要になることもあります。このほか、携帯電話・公共料金などの解約、保険会社・年金関係の手続きでも提出を求められます。
提出先が複数になるうえ、原本提出を求められるケースもあるため、少なくとも3〜4通は取得しておくと、何度も役所へ足を運ばずに済みます。
また、国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入していた場合、申請により3万〜7万円程度の「葬祭費」が支給されます。忘れずに手続きしてください。
介護保険証は返却前に裏表コピーを取る
役所の福祉課で「介護保険証」を返却する際、必ず裏表のコピーを取ってから提出してください。一度返却すれば二度と戻りません。提出前の数分が、将来の数百万円の節税につながる可能性があります。
なぜコピーが必要なのでしょうか。それは、将来の相続税の特例申請において、「亡くなる前、どのような生活状況だったか」を証明する資料になるからです。
特に関係するのが次の2つの制度です。
小規模宅地等の特例は、自宅の土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。例えば土地の評価額が5,000万円であれば、特例適用後に1,000万円まで下がる可能性があります。亡くなった方が老人ホームや介護施設に入居していた場合、税務署から「本当に介護が理由で施設に入ったのか」を確認されることがあります。介護保険証に記載されている要介護認定の内容や認定時期が、その重要な証拠になります。
空き家特例は、亡くなった親の家を売却した際に譲渡所得の税金を軽減できる制度です。「亡くなるまで本人が住んでいたか」「施設入所後も生活の本拠だったか」が問われるケースがあり、介護関係書類が確認資料として求められる場合があります。
なお、介護保険証だけでなく、後期高齢者医療被保険者証や各種認定証も返却前にまとめてコピーまたはスマホ撮影しておくと安心です。相続手続きは数ヶ月後・数年後に突然必要書類が増えることがあり、「昔の書類が残っていて助かった」というケースは非常に多いです。
健康保険・年金の手続き
亡くなった方が健康保険や年金を受給していた場合は、それぞれの窓口に連絡して手続きを行いましょう。年金の受給停止手続きが遅れると、後で返還を求められる場合があります。
ステップ2:1週間以内にやること ―― 遺言書とお金の確認
遺言書の確認(3か所を必ず調べる)
遺言書の有無は、できるだけ早い段階で確認しておきましょう。遺言書が見つかるかどうかによって、この後の手続きの進め方が大きく変わるからです。確認すべき場所は次の3か所です。
① 自宅・金庫 故人が自筆で書いた「自筆証書遺言」が自宅に保管されているケースです。金庫や引き出し、通帳のそばなどを探してみてください。
② 公証役場 公証人が作成に関わった「公正証書遺言」があるかどうかは、全国どこの公証役場でも照会できます。
③ 法務局(遺言書保管所) 2020年から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用して、故人が法務局に遺言書を預けていたケースがあります。法務局に保管されているかどうかわからない場合は、最寄りの遺言書保管所(法務局)に「遺言書保管事実証明書」(手数料800円)を請求することで確認できます。手続きできるのは相続人・受遺者・遺言執行者等に限られ、窓口・郵送どちらでも申請可能です。法務局に遺言書があることが判明したら、次に「遺言書情報証明書」(手数料1,400円)の交付を請求します。これは遺言書の画像情報がすべて印刷されたもので、遺言書の原本の代わりとして各種相続手続きに使用します。
この制度の大きなメリットとして、法務局に保管された遺言書は、家庭裁判所での「検認」手続きが不要です。検認とは遺言書の存在と内容を相続人に知らせ、偽造・変造を防ぐための手続きですが、法務局保管の場合はその必要がなく、発見後すぐに相続手続きに進むことができます。
注意点が一つ。 自宅で自筆の遺言書が見つかった場合は、絶対に勝手に開封しないでください。法務局保管と異なり、自宅保管の自筆遺言書には必ず家庭裁判所での「検認」が必要です。検認を経ずに開封するとトラブルの原因になることがあります。
遺言書の有無と内容が確認できたら、それをもとにステップ4で遺産の分け方の方針を決めていきます。
銀行口座の確認と「やってはいけないこと」
銀行に亡くなったことが伝わると、口座が凍結されて引き出しができなくなります。生活費や葬儀費用の準備が必要な場合、亡くなった方のキャッシュカードで現金を引き出すのは絶対にやめてください。これには2つの大きなリスクがあります。
一つ目は「単純承認」の罠です。遺産を勝手に引き出して使うと、法律上「遺産を引き継ぐことを認めた」とみなされます。後から隠れた借金が発覚しても、相続放棄ができなくなります。
二つ目は税務調査のリスクです。税務署は亡くなった方の過去の預金口座の動きを詳細に把握しています。亡くなった直後の不自然な引き出しは、税務調査で厳しく追及される対象になるだけでなく、他の相続人から「使い込み」を疑われるトラブルにもなりかねません。
急ぎの資金が必要な場合は、2019年の法改正で新設された「仮払い制度」を利用しましょう。1つの金融機関につき最大150万円まで、合法的に引き出すことが可能です。
デジタル遺品(スマホ・サブスク)の整理
「親のスマホのパスワードがわからずサブスクが解約できない」という相談が増えています。専門業者にロック解除を依頼すると20〜30万円もかかることがありますが、解決策はシンプルです。クレジットカードの支払いを止めるだけで十分です。カード会社に名義人が亡くなったことを伝えれば、紐づいている有料サービスは自動的に解約されるか、紙の請求書が届くようになります。無理にスマホを解除する必要はありません。
ステップ3:1ヶ月以内にやること ―― 相続人と財産の把握
「誰が相続するのか」「どんな財産があるのか」を整理し始める段階です。
まず役所で戸籍謄本を取得し、法定相続人を確認します。このとき、被相続人の出生から死亡までの全戸籍を取り寄せることが重要です。知らなかった子や認知した子が存在するケースも、実際には少なくありません。
財産の確認では、不動産・預金・株・保険などのプラスの財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も必ず調べてください。ここをしっかり把握しておくことが、次のステップの判断に直結します。
ステップ4:四十九日が過ぎたころから ―― 遺産分割の方針決定
四十九日法要が終わり、少し気持ちが落ち着いてきたころが、遺産の分け方について話し合いを始める目安です。ステップ2で確認した遺言書の有無によって、ここからの進め方が変わります。
遺言書がある場合
原則として、遺言書は遺産分割協議よりも優先されます。遺言書が見つかった場合は、まずその内容に従って手続きを進めることが基本です。
ただし、相続人(及び受遺者)が全員合意できれば、遺言書と異なる遺産分割をすることも可能です。
なお、次のケースでは遺言書の内容を変更できないため注意が必要です。
- 遺言書で遺産分割協議そのものを禁止している場合
- 遺言執行者が選任されており、遺産分割協議に同意していない場合
- 相続人以外の受遺者がいる場合(受遺者が遺贈を放棄しない限り変更不可)
また、遺言に従って分割した後で協議をやり直すと「遺産の再分割」となり、相続税のほかに贈与税や所得税が課税されることがあります。遺言の内容に疑問がある場合は、先に弁護士に相談してから動くことをおすすめします。
遺言書がない場合
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合いを行う「遺産分割協議」がスタートです。
ここで一つ大切なポイントがあります。法定相続分どおりに遺産を分ける場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。民法で定められた割合(例:配偶者1/2、子ども1/2)のまま相続するなら、書類なしで手続きは進められます。
ただし、法定相続分で相続すると、不動産は相続人全員の共有名義となり、権利関係が複雑化するためおすすめしません。売却や建て替えに全員の同意が必要になり、二次相続が発生すると権利者がさらに増えてトラブルの原因になります。特に不動産がある場合は、誰が単独で取得するかを決めて遺産分割協議書を作成することを強くおすすめします。
また、配偶者控除や小規模宅地等の特例など、相続税を大きく減らせる優遇措置を利用するためには、遺産分割協議書が必要になる場合があります。
遺産分割協議そのものに法律上の期限はありませんが、相続税の申告期限(10ヶ月以内)までに話し合いがまとまっていないと、こうした優遇措置が使えなくなる場合があります。話し合いがまとまったら内容を遺産分割協議書として書面に残し、相続人全員が署名・実印の押印をします。
ステップ5:3ヶ月以内にやること ―― 相続放棄・限定承認の決断
相続には、財産と借金をそのまま引き継ぐ「単純承認」のほかに、2つの選択肢があります。
相続放棄は、プラスもマイナスもすべて相続しないという選択です。借金が多い場合に有効ですが、亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で申請しなければなりません。
限定承認は、相続したプラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産(借金)を引き継ぐ方法です。財産と借金のどちらが多いか判断がつかない場合に検討できますが、相続人全員で一緒に申請する必要があり、実際には利用されるケースが少ないのが現状です。こちらも期限は3ヶ月以内です。
どちらも期限を過ぎると「単純承認」とみなされ、借金を含めてすべてを相続したことになります。判断に迷う場合は、早めに弁護士に相談してください。
ステップ6:4ヶ月以内にやること ―― 準確定申告
あまり知られていませんが、亡くなった方の代わりに、相続人が所得税の確定申告を行う必要があります。これを「準確定申告」といいます。
期限は亡くなったことを知った日の翌日から4ヶ月以内で、期限を過ぎると延滞税がかかることがあります。
準確定申告が必要になるのは、主に次のようなケースです。
- 自営業・アパート経営など、事業所得や不動産所得があった方
- 年金以外に給与所得や複数の収入があった方
- 年金受給者で、年金収入が400万円を超えていた方、または年金以外の所得が20万円を超えていた方
「うちは年金生活だったから関係ない」と思いがちですが、年金受給者でも申告が必要になる場合があります。まずは税理士に確認することをおすすめします。
ステップ7:10ヶ月以内にやること ―― 相続税の申告と不動産登記
相続税の申告
相続税の申告・納付の期限は、亡くなってから10ヶ月以内です。
「うちには大した財産がないから関係ない」と自己判断するのは禁物です。相続税には以下の基礎控除がありますが、自宅の土地と少しの預貯金があるだけでこのラインを超えてしまうケースが増えています。
相続税の基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
配偶者控除や小規模宅地等の特例を活用すれば、税額を大幅に減らせる可能性があります。遺産分割協議が完了したら、速やかに税理士に相談して試算してもらいましょう。
不動産の相続登記
2024年4月から不動産の相続登記(名義変更)が義務化されました。相続による不動産の取得を知った日から3年以内に登記しないと、過料(ペナルティ)が科される可能性があります。
不動産の登記は、遺産分割協議と税務申告が解決した後に進める手続きです。誰が不動産を取得するかが決まり、相続税の申告も終わった段階で、司法書士に依頼して登記申請を行います。
銀行口座・株式・自動車などの名義変更も、遺産分割協議書が完成し次第、速やかに進めましょう。
見落としがちな手続き ―― 期限に注意!
生命保険金の請求は、多くの保険会社で3年以内が請求期限とされています。受取人が指定されている場合、保険金は相続財産ではなく受取人固有の財産になりますが、請求を忘れると時効になる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、遺言などによって法定相続分を大きく下回る相続になった場合に、最低限の取り分を請求できる権利です。相続開始と侵害の事実を知った日から1年以内に請求しなければなりません。
専門家への相談について ―― 一人で抱え込まないために
相続の手続きは、期限があるものも多く、判断を誤ると取り返しのつかない不利益につながることがあります。できれば手続きを始める前の早い段階で、一度専門家に相談することをおすすめします。
相談する専門家は、今どんな問題が生じているかによって選ぶのが一番です。
法律的なトラブルや分割協議で困ったら → 弁護士 相続人同士の話し合いがまとまらない場合、遺言の有効性に疑問がある場合、遺留分の請求など、法的な問題が絡む場面ではまず弁護士に相談してください。トラブルになる前の早めの相談が、時間もコストも節約につながります。
相続税や準確定申告で困ったら → 税理士 相続税の申告・準確定申告・各種特例の活用など、税務全般を相談できます。「相続税がかかるかどうかもわからない」という段階でも、気軽に相談してみましょう。
不動産の名義変更で困ったら → 司法書士 不動産の相続登記は、遺産分割協議と税務申告が解決した後に依頼する手続きです。誰が不動産を取得するかが決まってから相談しましょう。
「何から始めればいいかわからない」という場合 → ファイナンシャルプランナー(FP) 弁護士や税理士は各分野の専門家ですが、相続全体を俯瞰して中立的な立場からアドバイスをもらいたい場合は、ファイナンシャルプランナー(FP)への相談も選択肢の一つです。財産の整理や今後の生活設計も含めて、幅広い視点からサポートを受けることができます。特に「まず全体像を把握したい」「どの専門家に相談すべきか判断したい」という方に向いています。
まとめ:あなたは今、どのステップにいますか?
相続の手続きは確かに多く、期限があるものも少なくありません。ただ、順番さえ押さえておけば、一つずつ確実に乗り越えられます。
「今自分がどのステップにいるのか」をまず確認してみてください。そして判断に迷うことがあれば、一人で抱え込まずに専門家の力を借けることを迷わず選んでください。
あなたは今、大切な人を亡くしたばかりで、心も体も疲れているはずです。それでもこうして情報を集め、前に進もうとしていることは、本当に立派なことです。焦らず、少しずつ進んでいきましょう。必ず乗り越えられます。

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