あれは、夏の終わりの蒸し暑い午後だっ
た。
仏間の障子を開けると、静かに埃が舞っ
た。祖父が残した古い一軒家は、思い出
とともに、確実に時間の中で老いてい
た。その家の登記簿には、まだ「祖父の
名前」が刻まれていた——亡くなってか
ら20年近くも経っているのに。
「そろそろ登記、やらないとな。」
そう思い立ったのが、すべての始まりだ
った。
🔍 登記簿から広がる“迷路”
司法書士に相談すると言われた。
「相続人が多いですね。順を追って、
整理しましょう。」
目の前に広げられた家系図は、複雑に
枝分かれした巨大な相続ツリー。私の
祖父には、前妻と後妻がいて、それぞれ
の間に子どもがいた。加えて、その子
どもたちもすでに亡くなっていたり、
配偶者や子どもがいたりしていた。
頭の中がぐるぐるする。誰が相続人で、
どこまで探せばいいのか。
まるで、終わりの見えない迷路を彷徨っ
ているようだった。
🧾 一人ずつ、相続人をたどる旅
司法書士の助けを借りて、一つずつ
相続の流れをたどった。
✅【第1段階】祖父の相続
法定相続人は5人。後妻と4人の子ども
たち。内訳はこうだった:
・後妻:1/2
・前妻の長女(私の母):1/8
・前妻の長男(叔父):1/8
・後妻の長女:1/8
・後妻の長男:1/8
→ しかし、このうち4人がすでに他界
しており、相続分は次世代へ…
✅【第2・3段階】母 → 父 → 私と妹へ
・母の1/8の持分
→ 父(1/16)・私(1/32)
・妹(1/32)
・父の持分(1/16)
→ 私と妹が1/2ずつ分ける
💡結果:
・私:2/32
・妹:2/32
✅【第4段階】前妻の長男(叔父)の相続
叔父の持分(1/8)は、
・配偶者(存命):2/32
・子(いとこ):2/32
✅【第5段階】後妻の相続
後妻の1/2の持分は、
・後妻の長女:8/32
・後妻の長男:8/32
✅【第6段階】後妻の長男の相続(合計12/32)
後妻の長男は、祖父と後妻から
計12/32を取得し、それを次の3人
が法定相続:
・配偶者(義理の娘):6/32
・長女(孫):3/32
・長男(孫):3/32
📊【最終的な持分まとめ(分母32)】
・後妻の長女:12/32
・後妻長男の配偶者(義理娘):6/32
・後妻長男の長女(孫):3/32
・後妻長男の長男(孫):3/32
・あなた(私):2/32
・妹:2/32
・前妻長男の配偶者:2/32
・前妻長男の子(いとこ):2/32
🛑【壁】いとこが行方不明
ここまでたどって、最後にぶつかったの
が「いとこ(前妻長男の子)」の行方
がわからないという現実。
住民票を追っても、除票。連絡手段もな
い。「連絡がつかない以上、遺産分割協
議はできません」と司法書士から冷たく
告げられた。
✅【結末】義務化された「相続登記」
2024年4月から、相続登記が義務化
された。
不完全なまま放置はできない——そこで
私は、「相続人申告登記」を行った。
これは、『私が相続人の一人である』と
法務局に申告する制度。
登記簿上は祖父名義のままだが、少なく
とも義務は果たした。
これが、今の私にできる精一杯だった。
🎯【教訓】「相続は生きているうちに整理すべし」
・相続人が多いと、何年もかかる
・戸籍の取得・関係者の探索は予想以上
に大変
・一人でも行方不明だと登記ができない
・相続人申告登記で最低限の義務は果た
せる
祖父が生前にもう少しだけ準備をしてい
てくれたら・・・
そう思わずにはいられない。
✍️ 最後に
この記事が、同じような悩みを抱える
誰かの「ヒント」になれば幸いです。
不動産の相続は、「いつか誰かがやるだ
ろう」では、何も進みません。そして気
づけば、あなたが“その誰か”になって
いるのです。
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